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Project Logical Dream Phase-2:epilogue. |
【2】 ビット。世界のすべてはビットである。 ON と OFF、0 と 1 、 ビットは 8 個を基準にまとめられあげて意味を与えられる。128 個、1024 個、65536 個、16777216 個、と次々にまとめられ、機能を持つ。やがてそれらの塊も相互に結びつけられ、また新たな塊を形成していく。 でゅろ子だけでなく、デジタロイドが見ている世界「 ビットは一つ一つでは意味を持たないが、いくつかの塊を形成することで機能を持っていく。ビットが 8 個並べば、10 進数で言う 1 〜 256 までの数を表すことが出来るし、16 個並べば文字を体系的に定義した文字コードの情報を持つことが出来る。あるビット列は誰かの大切な想いをつづった文字コードの配列かもしれないし、あるビット列は CPU にとって特別な デジタロイドの「からだ」を形成しているのもビット列だ。メモリ上に展開された膨大な量のビットは、一つの塊をもって細胞のようなものを形成する。「オブジェクト」である。 オブジェクトは人間の細胞のように機能する。生命の設計図 DNA と RNA からタンパク質が生まれるように、オブジェクトも「クラス」という設計図から生成される。生成されたオブジェクトは細胞のように 「 旧式の「 ein 」のロジックスペースは、乏しいメインメモリと前時代的な 『でゅろ子』 ふと、声がした。 でゅろ子の目の前、人間の目視に置き換えて一辺約 50 cm 程の空間が四角く切り取られた。そしてノイズ混じりの声とともに、やや暗い映像が浮かび上がる。 『聞こえる? でゅろ子』 いつもなら表情を崩さず凛とした和美が、今にも泣きそうな顔をしている。その側でこちらをのぞき込んでいる でゅろ子は少しだけつとめて、微笑みをつくった。 「ただいま」 和美たちと、その背後で、歓声がわき起こった。 ※ ※ 「そうですか。……ではちょっと遅いですね」「 つぶやいたデジタロイドは端正だが鋭角的な容姿で、眼鏡をかけていた。 「あぁ。せれ子はもう着いた。ゲートウェイもちゃんと通過したし、詳細チェックが済んだらすぐにでもここに来られる」 もう一人は相手より少し背が低く、多少幼さを残した顔立ちをしていた。重力の影響を受けていないかのうに軽やかに天に向かった髪の毛と、鋭いが少年のように大きい瞳を持ち合わせている。 「二人は同時にアンインストールされたんですね?」 「そうせれ子から聞いてる。っつーか、ゴーストってのは二人でワンセットらしいからな。タイムラグがあるハズが無ぇ」 印象的な瞳を持つデジタロイド…… 「そりゃよ、なんだっけ、あの古くさい TCP/IP のルーティングとかいう仕掛け。そのせいでバックボーンが狭くてクソ遅い回線に回されたんなら話はわかるんだがな」 「いえ、寄生したルータは同じものです。そこから TTTP に乗って I.N.T.E.L. と A.M.D. に分岐したはずですから、タイムラグはほぼゼロ、あっても誤差範囲内だと思うのですが」 眼鏡越しに冷ややかな視線を「 ein 」の出口に向けて、 「ところで、いいんですか? そちらの状況をこちらに教えて。提携を結んでいるとは言え不用意に思えますが? 一応機密事項ですから」 「……んだよ、せっかく教えてやったのにその言いぐさは無ぇだろぉ?」 「それでも機密は機密です。辺太郎、あなたは仮にも、一企業の最先端技術の結晶なんです。トップシークレットな存在なんです。本来なら、自由に行動することもできないはずなんですよ?」 「わーってるよ。それもこれも大阪府警の 「あまり自覚しているようには見えませんが?」 「あーもうっ! 別にベラベラと吹聴して回ってるんじゃねぇんだしいぃじゃねぇか!! 信用してるヤツに教えてやるくらい…………!」 言ってから、辺太郎はそのままのポーズで固まった。 「……って……あ、いや、その」 凍り付いたまま辺太郎はたどたどしく弁解の言葉を探したが、 「へぇ……信用、ですか」 その猶予も与えず亜栖論がそれを遮った。 「あ……いや、その、なんだ、別にお前を信用してるとかそういう……」 「あの辺太郎がねぇ。私を見るといつもケンカをふっかけてきた、あの辺太郎が」 「だー! だからだな、俺とお前は提携企業の製品どうしだし、共同テストのパートナーだし、大阪府警の……」 「いや。素直になってくれたものです。ずいぶん丸くなりました。いい子になりましたね、辺太郎」 「だあああぁぁあぁぁ!!! いいか!! 俺とっ、お前はっ、仕事上のっ、つきあいでっ、仕方なくっ、パートナー組んでやってるんだからな!! だからっ………!!」 真っ赤な顔と、自分と亜栖論を交互に指さす大げさなジェスチャーで否定しようと必死な辺太郎に、亜栖論は笑いをこらえきれなかった。 「あはははははははは」 声を張り上げてあからさまに笑った。 「ちょ、てっ、てめぇ!!」 「……いやいやいや。失礼。……いや、あなたと居ると本当に退屈しませんよ、辺太郎くん」 「こらっ! 人を「くん」付けで呼ぶな! しかもこんな時に!!」 「じゃぁどんな時ならいいんです?」 「ど、どんな時って……!」 「それでは、いつも『辺太郎くん』とお呼びしても構わないのですね?」 「だからそうじゃなくて!!」 「そうですかそうですか。わかりました。ではこれから敬称付きで呼ばせていただきます、辺太郎くん」 「しっ、しつけーぞてめぇ!! ………って」 青筋を立てて憤慨した辺太郎が、亜栖論の背後の異変に気づいた。 その顔色の変化を見て、亜栖論も真顔に戻る。 「おかしいな……なんかおかしくないか?」 「そうですね……私も気づきました」 辺太郎が身構え、亜栖論が肩越しに振り返る。プロトコルに互換性のない向こう側の闇が、少しふくらんできているような感覚に二人はとらわれていた。 「……どうも……『向こう』の状況がただごとではないように感じますね」 「あぁ。なんかイヤな気配がする」 闇が膨張を続けている。 「こういう場合、俺らはファイアーウォールを強制通過してもいいんだっけ?」 辺太郎は、身の内からこみ上げる高揚感を押さえながら言った。 『敵』と認識したものを目の前にすると辺太郎は好戦的な笑みを浮かべる。以前の彼なら後先を考えずゲートウェイを突破したであろうが、亜栖論の長期にわたる「教育」の末、戦意をため込んだまま待つことを覚えた。 そして彼が『敵』と認識するものは、亜栖論にとっても同様に識別されるものであった。 「ケイ!」 亜栖論は左腕を下から上へ弧を描くように振り上げた。その軌跡が光を宿している。 「ティ!」 左腕と同様に右腕を振り上げた。二つの光の軌跡はオブジェクトのかたまりである。そして瞬く間に有機的なインスタンスを構成し、二つの銀色に光る流線型の「使い魔」が現れた。亜栖論のサポートルーチン、「ケイ」と「ティ」である。 亜栖論は呼び出した二つの使い魔に指令を与えた。 「『 ein 』の中に入ります。私の妹に危険が迫っているようです。急を要します。ファイアーウォールに穴を開けてください」 |
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